広い検査範囲、小さな不良、内部の異物――不織布検査の課題を、二人三脚で乗り越えたAI導入の舞台裏
1894年の創業以来130年以上の歴史を持つ金井重要工業株式会社(以下、同社)。繊維機器部品の製造で創業し、1958年には日本不織布産業の先発4社のうちの1社として不織布製造を開始しました。
長い歴史を持つ同社ですが、品質管理において大きな課題に直面していました。丁寧な目視検査を実施していましたが、広い検査範囲で見逃しを無くすことは難しく、特に不織布特有の「内部の異物」は、検出が困難でした。
今回は、製造・設備・品質保証の各部署から5名の担当者様にお集まりいただき、外観検査システム導入の決断から運用に至るまでの経緯、そして二人三脚で課題を乗り越えた舞台裏をお伺いしました。
不織布事業部 製造グループ
グループリーダー
山本 様
<製造ライン責任者>
不織布事業部
製造グループ ラインリーダー
三好 様
<設備・技術担当>
不織布事業部 製造グループ
亀本 様
不織布事業部 品質保証グループ
グループリーダー
河井 様
<品質保証担当>
不織布事業部 品質保証グループ
河原 様
導入前の課題|難易度の高い目視検査と人手不足
目視検査の限界
長年にわたり、不織布製品の検査を人の目による目視検査で行ってきました。製品1本あたり約1時間をかけて丁寧に検査し、検査工程に2名を配置して表裏を確認していましたが、それでも見逃しは発生していました。
幅も広く、1ロール数百mもある不織布の検査は非常に難しく、検査員の熟練度や疲労度合いにも影響を受け、検査精度にバラつきがありました。
「数時間連続で欠点を探し続ける作業は、疲労を考慮すると人では不可能。休憩時間を増やしたり、検査以外の工程を回してもらったりして検査員への負担軽減に繋がるような工夫はしていた。」(製造グループ ラインリーダー・三好様)
熟練者にしか見つけられない不良もあり、若手の育成も課題でした。見逃しを減らし、経験の浅い人でも対応を可能にするため、濃淡差を見る検査カメラを導入しましたが、新たな壁にぶつかります。
難易度の高い検査項目
不織布は厚みもあり、地合いのムラなどは表面を見ただけではわかりません。最も深刻だったのは、成形後に初めて見えてくる内部の異物です。
「表面は反射光で見えるが、透過光で見ないと中まで見えない。不織布は地合いがあるため、その内部まで確認できるようなシステムが、過去から調査している中では無かった」(品質保証グループ・河原様)
不良指摘と見えないコスト
同社が製造する不織布の一つは、自動車の天井内装材として使用されます。ロール状の製品は、異物やダマ、汚れなどの不良箇所に「この部分に不良がある」という印をつけて出荷されますが、この印付けに漏れがあると、大きな問題に発展します。
客先の製品加工後に不良箇所が発見されると、“外観不良”という理由で製品全体が破棄対象となり、原材料側の瑕疵として補償対応が発生する仕組みです。
ピーク時には、不良指摘が相次ぐ状況でした。補償対応に加えて、報告書の作成には数十時間を要し、写真撮影から掲載までを一枚ずつ行う工程にも相応の工数が必要でした。不良対応に伴う補償費用とは別に、こうした間接的な業務コストも発生していたのです。
導入のきっかけ|小さなスタートアップを信じた決断
導入のきっかけは、大阪産業創造館が主催するベンチャーサポートプログラム「IAG」での出会いでした。会長の金井 宏実様が、創業間もなく社員わずか10名程度だったフツパーと出会い、現場に話を持ち帰りました。
小さなスタートアップの提案を信じてくれた決断が、大きな変化の始まりとなりました。
当時、現場では担当者によって異なる課題を抱えていました。設備技術担当は省人化・無人化による「生産性向上」を、製造担当と品質保証は「流出防止」を目指し調査を進めていました。会長からの情報と、現場が感じていたテクノロジーの必要性。両者が重なり、全社一丸となってプロジェクトが進みました。
導入の決め手|技術力と伴走型サポート
反射光と透過光の複合検査
選定の決め手の一つは、反射光と透過光の両方をAIに学習させるという技術提案でした。
「反射光と透過光と両方を使い、製品から画像データを取得してAI学習させれば内部の異物も検出できる可能性があるという具体的な提案をいただいた」(河原様)
人間の目と機械の目、両方の強みを活かせる。表面だけでなく内部まで検査できる複合検査の可能性に、大きな期待を寄せました。
学習から運用まで「ワンストップ」の安心感
もう一つの大きな決め手が、学習から運用まで一気通貫でサポートする体制でした。
多くのAIシステムは、ある程度学習させたモデルを納品して終わりというケースが少なくありません。しかし、フツパーは学習データ作成の段階から伴走し、運用後のメンテナンスまで全面的にサポートする体制でした。
「実はちょうどこのプロジェクトが始まった頃に入社しまして、初めて担当したプロジェクトがAIカメラの導入でした。まだAIや設備に関する知識が備わっていない中で、AIの学習方法であったり、機器の調整であったり、全体のフォローをしてくださることがすごく心強かった」(製造グループ・亀本様)
技術提案だけでなく、担当者間の信頼関係を築けるかどうか。それが選定の重要なポイントでした。
運用までの苦労|二人三脚で作り上げた検査システム
検知精度を左右する学習データ作り
導入プロジェクトで最も苦労したのは、AIの学習データ作成でした。
同社のケースでは「良品学習」を実施しています。不良個所が極端に少ないため、良品を覚えさせることで異常を検知する手法です。しかし、検査する範囲は非常に広いのに、不良サイズは非常に小さい。不織布全体を撮影した画像データだけでは、どこに異物があるのか判別できませんでした。
そこで河原様は、独自の工夫で学習データを作成しました。不良箇所がある耳端にテープをつけ、「そこから何センチの位置に異物がある」という不良の位置情報マップを作成。それと画像をセットで送ることで、AI学習に必要な良品画像の選別を効率化しました。
「テスト反*を作る作業は河原さんが担当してくれました。AIに “OK”・”NG”を教えることは容易ではなく、かなりの時間をかけてもらったので非常に助かりました。そのおかげで正しいデータをAIに学習させることができました」(亀本様)
*テスト反:学習用のサンプル
この地道な作業が、AI精度確立の土台となりました。
なかなか上がらない検査精度
当初、同社で用意したLEDでは求める精度が出ませんでした。一旦はモデルを回して検出できるようにはなったものの、現場が求める精度には届きません。
「なんとか精度問題を解決してほしいという社内からの強い要望があり、フツパーの担当者さんに相談したら、画像処理専用の照明への変更を提案してくれた」(亀本様)
不織布は種類によって厚みや密度が異なり、見え方が照明の明るさで変わってきます。ロールの仕上がり具合を見て、光量を自動調整する機能も合わせて実装しました。
「光量の自動調整を導入して、製品検査に使用しながら学習を繰り返していくと、精度が上がってきたことを実感できた。AIを導入しても検査をしなくてもよくなるわけではないため、導入当初は現場レベルではメリットを実感しづらい状態であったが、精度が上がったことで検査員から『検査が楽になって助かるわ』と言ってくれるようにもなった。」(亀本様)
現場に寄り添う対応
調整期間中、エンジニアとの連携が大きな支えとなりました。
トラブル発生時も当日中に連絡がつき、できる限り早く駆けつける体制。途中からリモートシステムも導入し、出先から電話しながらリモートで修正するなど、その日のうちに対応できる形になりました。
基本的に平日は現場で検査を実施しているが稼働しているため、変更や調整をする場合は検査の止まっている時間帯(土曜日など)に一緒に作業するようなこともありました。
「フツパーの担当者さんが助けてくれたから、最後までたどり着いた」(亀本様)
現場で実際に検査精度が出るまでの調整過程。この工程が導入成果向上において、最も重要なポイントでした。
導入後の効果
不良指摘が約95%削減
最も大きな成果は、不良指摘の激減でした。
目視検査だけの時と比較すると、1台目のシステムを入れて客先から不良指摘は半減、今回の検査機を導入してからは、月数件にまで削減。約95%の削減を実現しています。
残る不良指摘も内容が変化しています。不良を除去した時の取り方の問題や、成形工程での課題など、検査における見落としは大幅に減少しています。
検査時間も半減|約1時間 → 30〜35分
不良見逃しの削減と並行して、検査時間も短縮。製品1本あたり約1時間かかっていたものが、現在は30〜35分程度まで短縮し、生産性も向上しました。
スキルの平準化と安心感
検査に必要な熟練度が下がることも大きなメリットです。比較的社歴や経験の浅い人でも、カメラを使った検査機の補助を受けながら検査ができるようになりました。
人の目だけに頼るプレッシャーから解放され、AIが補助してくれる安心感が現場に生まれました。検査担当者の精神的な負担も大きく軽減されています。
発生源対策へのフィードバック
導入後は、不良の検知精度が向上しました。発生要因の究明に繋がり、上流工程へのフィードバックができるようになったのです。
生産機械から出る異物を防止するため、メンテナンスに時間をかけたり、機械だけでなく材料を見直したり。検査工程で不良流出を止めるだけでなく、もっと上流で対策する議論が生まれました。
結果として、発生防止により多くの時間が割けるようになり、根本的な品質向上に繋がっています。
「見えないコスト」の削減
補償対応や不良指摘への対応にかかる人件費・時間などの「見えないコスト」も削減できました。不良対応に伴う調査や報告書作成といった業務負担が軽減され、間接的な業務コストの削減にもつながっています。
指摘がゼロになるように、不良を発生させない作り方を全社的に追求しています。自動車業界は高い精度が求められるため、省人化と流出防止、さらには不良の発生防止という複数の課題を同時に解決しています。
今後の展望
対象の拡大と精度向上への挑戦
今後は、現在の製品以外(厚みや素材が異なる製品)にもAI検査を適用し、同じ検査装置で対応できる品種を増やしていきたいと考えています。
「今使ってる2号機でより異物検出精度を上げ、他製品もAI検査を実施できるようにしたい」(河原様)
最終的には人が介在しない「無人化」を目指していますが、現在はまだAIが検知したものを人が確認する必要があるため、さらなる精度向上が目標です。
まとめ|二人三脚の課題解決が成功の鍵
今回の事例で明らかになったのは、AI導入の成功には技術力だけでなく、学習データ作成から現場調整まで、一緒に作り上げる体制が不可欠だということです。
主な成果
- 不良指摘を約95%削減
- 検査時間を半減(約1時間 → 30〜35分)
- 発生源対策へのフィードバックによる根本的な不良発生防止と品質向上
照明の変更、学習データの作成方法の工夫、二人三脚の現場調整。現場の課題に一つひとつ向き合い、解決策を一緒に考える。そうした信頼関係の構築が、プロジェクト成功の最大の要因となりました。
創業130年の老舗BtoBメーカーが、伝統と革新を両立する。製造業の新たなモデルケースとして、今後の展開が注目されます。
(本内容は2026年1月に取材した内容です)
社 名:金井重要工業株式会社
創 業:明治27年(1894年)3月9日
事業概要:繊維機器事業、不織布事業、不動産事業
社 員 数:247名(2025年3月末現在)
会 社 H P:https://www.kanaijuyo.co.jp/